ホーム › 不動産に関する有益情報 › 法人が収益不動産で節税できる仕組み
法人が収益不動産を買って税負担が下がる理由は、突き詰めると減価償却費です。法人の課税所得は、ざっくり次の式で動きます。
課税所得=家賃収入 −(管理費・修繕費・固定資産税などの経費)− 減価償却費 − 支払利息
このうち減価償却費だけが、現金が出ていかないのに経費になる項目です。家賃で現金は増えているのに帳簿上は赤字、という状態を意図的に作れる。これが「不動産で節税」と呼ばれているものの正体です。
逆に言えば、注意すべき点も同じ式から読み取れます。
中古の建物を買った場合、耐用年数は新築時の法定耐用年数ではなく、簡便法で計算します(国税庁タックスアンサー No.5404)。
住宅用建物の主な構造で計算すると次のようになります。
| 構造 | 法定耐用年数 | 築10年で購入 | 築25年で購入 |
|---|---|---|---|
| 木造 | 22年 | 14年 | 4年 |
| 軽量鉄骨造 | 27年 | 19年 | 7年 |
| 重量鉄骨造 | 34年 | 26年 | 14年 |
| RC造(鉄筋コンクリート) | 47年 | 39年 | 27年 |
1年未満の端数を切り捨てた年数です。たとえば木造・築10年は(22−10)+10×0.2=14年、木造・築25年は法定22年をすべて経過しているため22×0.2=4.4年→4年になります。
築22年を超えた木造が節税目的で選ばれるのは、この4年という数字のためです。建物3,000万円なら、年750万円の減価償却費が4年間続きます。同じ3,000万円でもRC造・築25年なら27年で割るので年111万円。1年あたりの効き方が7倍近く違います。
注意:耐用年数が短いということは、建物としての残り寿命も短いということです。償却が終わったあとに残るのは、築30年に近づいた木造アパートと、そこに残っているローンです。税額の計算と同じ熱量で、修繕計画と出口を見ておく必要があります。
同じ物件を買っても、個人と法人では税務上の扱いが変わります。保有中に法人が有利になりやすいのは、主に次の4点です。
| 論点 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 減価償却 | 強制償却(毎年必ず計上) | 任意償却(限度額の範囲で調整可) |
| 赤字のときの土地の負債利子 | 損益通算から除かれる | 制限なし |
| 赤字の繰越 | 青色申告で3年 | 青色申告で10年 |
| 他の所得との通算 | 不動産所得と給与等で通算 | すべての損益が1つの所得に |
法人の減価償却は、償却限度額の範囲内で損金経理した金額が損金になる仕組みです。つまり業績が悪い年は償却を見送り、利益が出た年に多く落とす、といった調整ができます。個人の場合は原則として毎年強制的に償却されるため、この調整はできません。
ただし、当初申告で損金経理していなかった減価償却費を後から追加することはできません。決算のときに判断しておく必要があります。
個人の場合、不動産所得が赤字のとき、土地等を取得するための負債の利子に相当する部分は損益通算できません(租税特別措置法41条の4)。借入はまず建物に充てたものとして計算できるので、建物価格を超えた借入部分が「土地の負債」として扱われます。
後述の例では、借入6,960万円に対して建物が3,000万円なので、利息の56.9%が通算の対象外になります。法人にはこの制限がありません。土地の比率が高い物件ほど、この差は大きくなります。
青色申告法人の欠損金は10年間繰り越せます。資本金1億円以下の中小法人等であれば、繰越控除をする事業年度の所得の100%まで控除できます(資本金1億円超の大法人は所得の50%が限度)。個人の青色申告の繰越が3年であることと比べると、償却で作った赤字を長く使えます。
法人の場合、不動産の損益は本業の損益と合流して1つの所得になります。本業で3,000万円の利益が出ている会社が不動産で400万円の赤字を作れば、課税所得は2,600万円になります。
次の条件で、法人(実効税率34%)が買った場合を年次で試算します。
| 項目 | 金額・条件 |
|---|---|
| 物件価格 | 8,000万円(建物3,000万円/土地5,000万円) |
| 購入諸費用 | 560万円 |
| 自己資金 | 1,600万円(借入6,960万円) |
| 借入条件 | 金利2.5%・20年(年間返済442.6万円) |
| 満室想定の年間収入 | 640万円(表面利回り8.00%) |
| 入居率・家賃変動 | 95%・年−1% |
| 構造・築年数 | 木造・築25年 → 簡便法で4年償却(年750万円) |
| 年 | 実質収入 | 経費 | 減価償却 | 支払利息 | 不動産の損益 | 税額 | 税引後CF |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 608.0 | 105.8 | 750.0 | 170.9 | −418.7 | −142.4 | 202.0 |
| 2年目 | 601.9 | 105.2 | 750.0 | 164.0 | −417.3 | −141.9 | 196.0 |
| 3年目 | 595.9 | 104.6 | 750.0 | 157.0 | −415.7 | −141.3 | 190.1 |
| 4年目 | 589.9 | 104.0 | 750.0 | 149.8 | −413.8 | −140.7 | 184.1 |
| 5年目 | 584.0 | 103.4 | 0 | 142.4 | +338.3 | +115.0 | −77.0 |
| 6年目 | 578.2 | 102.8 | 0 | 134.8 | +340.6 | +115.8 | −83.0 |
単位:万円。税額のマイナスは、本業の利益と通算して軽くなる金額を表します。
1年目、家賃で現金は増えているのに、帳簿上は418.7万円の赤字です。この赤字が本業の利益と通算されて、税負担が142.4万円軽くなります。同じことが4年続き、4年間の税の軽減額は合計566.3万円になります。
物件価格・建物価格・構造・築年数・税率を入れるだけ。減価償却の年数は簡便法で自動計算し、個人/法人を切り替えて比較できます。
無料のキャッシュフローシミュレーションを使う →上の表で色を変えた5年目の行が、この記事でいちばん見てほしいところです。
4年で建物3,000万円を償却し終えると、5年目の減価償却費はゼロになります。すると不動産の損益は−413.8万円から+338.3万円へ、752万円ぶん跳ね上がります。税額も−140.7万円から+115.0万円に転じます。
そして税引後のキャッシュフローは184.1万円からマイナス77.0万円へ。家賃はほとんど変わっていないのに、手残りが赤字になります。返済のうち元金部分は経費にならないため、償却という「経費の身代わり」がなくなると、帳簿の利益と現金の出方が真正面からぶつかるからです。この状態は一般にデッドクロスと呼ばれます。
この例では5〜8年目の4年間で、合計465.2万円を納税することになります。4年間で軽くした566.3万円の大半が、次の4年で戻っていく計算です。
もうひとつ、避けて通れないのが出口です。減価償却をした分だけ、帳簿上の建物価格(簿価)が下がります。売却益は売却価格 − 売却費用 −(簿価+取得時の諸費用)で計算されるので、簿価が下がるほど売却益は大きくなります。
上の例で、5年目の年末に売却した場合を見てみます。
| 想定売却価格 | 7,301万円 |
| 売却費用(3%) | −219万円 |
| 簿価(建物0円+土地5,000万円)+購入諸費用560万円 | −5,560万円 |
| 売却益 | 1,522万円 |
| 売却益にかかる税(34%) | 517万円 |
建物3,000万円は4年で償却し終えているので、簿価はゼロです。8,000万円で買ったものを7,301万円で売って、実際には699万円値下がりしているのに、税務上は1,522万円の利益が出たことになります。
ここが要点です。4年かけて軽くした税が566.3万円。売却した年に納める税が517万円。差し引き49万円しか残りません。減価償却による節税は、多くの場合「減税」ではなく課税の繰延です。
それでも意味があるのは、次のようなケースです。
同じ物件・同じ税率34%で、個人が買った場合と並べると、法人の性格がはっきりします。
| 比較する場面 | 法人 | 個人 | 差 |
|---|---|---|---|
| 1〜4年目の税の軽減額(合計) | 566.3万円 | 442.1万円 | 法人が124.2万円有利 |
| 6年目末に売却した場合の最終手残り | 306.3万円 | 380.7万円 | 個人が74.4万円有利 |
保有中に法人が有利なのは、前述の土地の負債利子の制限が効いているからです。この例では借入6,960万円のうち土地に対応する部分が56.9%あり、個人だと赤字の年にその利息が通算から除かれます。
逆に売却時は個人が有利になります。個人は譲渡した年の1月1日時点で所有5年超なら分離課税の20.315%で済むのに対し、法人には長期・短期の区別がなく、売却益も通常の所得と合算されて実効税率がそのままかかるためです。表の6年目は、個人がちょうど長期譲渡に切り替わる年にあたります。
参考:法人には「土地の譲渡等がある場合の特別税率」(租税特別措置法62条の3)という短期所有土地に対する重課の規定もありますが、この課税は長く停止されています。適用停止には期限が設けられており延長が繰り返されているため、売却が数年先になる場合は、その時点の取り扱いを税理士にご確認ください。
法人税率の目安(2026年8月時点):資本金1億円以下の中小法人は、年800万円以下の所得に15%の軽減税率、800万円超の部分は23.2%です(軽減税率は令和9年3月31日までに開始する事業年度が対象。所得10億円超の事業年度は800万円以下の部分も17%)。地方税を含めた実効税率は、800万円以下でおよそ22〜23%、800万円超でおよそ33〜34%が目安です。加えて令和8年4月1日以後に開始する事業年度から防衛特別法人税(基準法人税額から500万円を控除した額の4%)が課されます。基準法人税額が500万円以下の法人は課税されません。
減価償却費が経費になるためです。減価償却費は帳簿上の経費でありながら現金が出ていかないため、家賃で現金は増えているのに税務上の所得は減る、という状態を作れます。償却できるのは建物だけで、土地は償却できません。同じ価格の物件でも、建物の割合が高いほど効きは大きくなります。
償却期間が短く、1年あたりの減価償却費が大きくなるためです。中古資産の耐用年数は簡便法で計算し、法定耐用年数をすべて経過した資産は「法定耐用年数×0.2」になります。木造の法定耐用年数は22年なので、築22年を超えた木造は4年です。建物3,000万円なら年750万円が4年間続きます。
保有中は法人、売却時は個人が有利になりやすい傾向があります。保有中は、個人だと不動産所得が赤字のとき土地等を取得するための負債の利子が損益通算から除かれますが(租税特別措置法41条の4)、法人にこの制限はありません。一方で売却時は、個人なら5年超保有で分離課税20.315%が使えるのに対し、法人は売却益も通常の所得と合算されるため実効税率(中小法人で約33〜34%が目安)がそのままかかります。
多くの場合は「減税」ではなく「課税の繰延」です。償却した分だけ簿価が下がるため、売却時に売却益が大きくなり、軽くしていた税がそこで戻ります。得になるのは、税率が高い時期に落として低い時期に戻すケースや、手元資金を早く厚くできること自体に価値があるケースです。買う前に、償却が終わる年と売却する年の税額まで試算しておくことをおすすめします。
「この価格で買って収支が合うのか」「今売るといくら残るのか」を知りたいだけでも構いません。宅地建物取引士がお話をうかがいます。
お問い合わせフォームへ →法人のお客様への提案資料として、35年分の年次キャッシュフローと各年に売却した場合の手残りをPDF/Excelで自動作成できます。減価償却は構造と築年数から簡便法で自動計算、個人/法人の切り替えにも対応しています。
Sonaureのキャッシュフローシミュレーションを見る →※ 本記事の試算は、記載した前提条件にもとづく概算です。税額は入力した実効税率を一律に掛けた簡易計算であり、所得区分・各種特別控除・地方税の超過課税・防衛特別法人税は個別に反映していません。想定売却価格は購入時の表面利回りから割り戻した計算値で、将来の価格を予測したものではありません。実際の税額・耐用年数・建物と土地の按分の妥当性は、契約内容と決算の状況によって変わります。税制は改正されることがあり、本記事は2026年8月時点の制度にもとづいています。個別具体の税務判断は必ず税理士にご相談ください。
参考:国税庁タックスアンサー No.5404「中古資産の耐用年数」/No.5759「法人税の税率」/No.5762「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」/No.1391「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」/租税特別措置法41条の4・42条の3の2・62条の3/法人税法31条(減価償却資産の償却費の計算)/財務省「令和7年度税制改正の大綱」(防衛特別法人税)